「田舎暮らし」という言葉を聞くと、ほとんどの人が、そこはかとなくロマンティックな気分になるらしい。視線を遠く漂わせて、「うらやましいですねえ」と溜息をつく。自分の今の暮らしが話題に登るたびに、そんな表情に出会うのはちょっと嬉しいことである反面、日本人は疲れているのだなあと心配にもなる。
“癒し”が、まるでアイドル歌手の名前のように連呼されるようになってきたのも、そんな時世の現れだろう。私の住む栃木県の那須高原でも、休日になると、木立の中をそぞろ歩く観光客がよく目につく。年齢はさまざまだ。若い人達のグループから熟年夫婦らしい二人連れ。ちょっとわけあり(?)な感じの男女など、思わずあとをつけて行きたくなる人もいるが、彼らが必ず向かうのは、あちこちに湧く温泉なのだ。
私もこちらに引っ越して来て、何より嬉しかったのが、この地元の温泉だった。都会育ちの身である。ご多分に洩れず、「田舎暮らし」と聞けばうっとりとなり、疲れ切った体を労る為、一大決心をしてこの地に家を建てたのだった。今では毎日、近くの露天風呂で一日の汗を流している。