海外ロケが無事に終わり、成田空港に降り立った。スイッチが仕事モードから切り替わる。真っ先に頭に浮かぶのは、リビングの角に集まった綿ボコリ、キッチンのフライパンや鍋の洗い物の数々、そしてなんと言っても私の愛娘、いや愛犬のコットンとビスケット(ビッケ)のこと…。えっ夫のことは?って…出発前にベネチアのホテルからラブコールをいれたばかりで、元気なのは充分承知なのだ。
「あの角を右に…」と早くも私は、タクシーの料金精算の準備にとりかかる。早く会いたい気持ちに急かされつつ玄関のドアを開ける。久々のママのお出ましに、ふたりは声にならない。悲鳴にも似た(クークークー)を足にまとわりつきながら連発してくるのだ。「あー、また寂しい思いをさせてしまった…」胸が締め付けられる一瞬である。
スーツケースを放り出し、私は2本のリードとお散歩BAGをわし掴みにして、一目散に二人を近所の多摩川へ連れて行ってあげるのだ。ススキやオミナエシが秋風になびく中、鳥たちが水辺で戯れ故郷信州を思わせる自然がここにはいっぱい。
ふたりのお散歩、普段は体が汚れないアスファルトコースがほとんど。なぜって、ふたりのシャンプー&ブロウはいくら小型犬とはいえ汗が滲むほどの大仕事なのだ。今日はふたりがリードをはずしてもらい自由に河原を走り回れる、めったに無い特別な日!なのだ。
今年で4歳になるコットンは、そのネーミングのとおり真っ白なふわふわの柔らか〜い巻き毛に覆われた、フランスはカナリア諸島原産のピジョン・フリーゼである。体重7キロ、胴長の車高短(シャコタン)典型的な座敷犬だから、多摩川の野原をお友達のワンちゃんと転げまわったりしたら、いっぺんでカフェオレ色に染まってしまう。
一方のビッケはクルクル巻き毛のロングノーズが特徴。ワイヤーのように剛毛でオイリーな毛に包まれたイギリス原産のワイヤーヘアードフォックステリアだ。2歳半のやんちゃな遊び盛りである。
そんなビッケは土手に積まれたテトラポットの隙間に顔をうずめて獲物を探している様子。自然に放り込まれると、どうやら彼女も野性の血が騒ぐようだ。「あーあ、こんなに口を真っ黒にしちゃってぇ」と思いながらも今日だけは無礼講。どんなに体が汚れようと、この後は気持ちのよいバスタイムが待っているから…。