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湯煙コラム

Vol. 17 稲川淳二

温泉のおかしくてコワ〜イ話

稲川淳二(いながわ じゅんじ)

タレント・デザイナー。
1970年、桑沢デザイン研究所・研究科卒業。工業デザイナーとして活躍し、各種専門学校、短大において立体造形の教師として教鞭をとる。のち芸事の世界に足を踏み入れ、商業演劇の舞台に立つ。マンガジョッキー(日本テレビ)のレギュラー、オールナイトニッポン(ニッポン放送)のパーソナリティとして活躍。またホラーブームの火付け役となり、現在は自他ともに認める怪談話の第一人者である。
デザイナーとしては、96年に「車どめ」で通商産業省選定グッドデザイン賞を受賞。
7/26〜10/3日まで、全国各地で「稲川淳二の怪談ナイト」を開催中。

稲川淳二公式サイト
 
稲川淳二というと、恐い話ばかりが有名ですけど、実は全国各地の温泉という温泉に入っているんですよ。私自身、温泉が大好きでしてね。そこで体験した本当に恐い話をひとつご紹介しましょうか。
20年ほど前になりますが、テレビ番組で私が郵便局員に扮そうして、群馬県のとある山奥の太郎くんという子に、ハガキを届けにいくという企画がありました。80ccのバイクでもって、はるばる山奥まで向かったわけですよ。
ところが、いざ会ってみると・・・・太郎くんってのは、人間じゃないんです!!
いやいやユーレイじゃありませんよ。実は小熊だったんです。で、そこはたまたま温泉郷だったので、何の因果か小熊と一緒に温泉に入ることになってしまったんですよ。でも小熊とはいえ、キバもツメも鋭いしねぇ。それなのに番組スタッフは「稲川さん、申し訳ないけど、温泉に入ったら小熊の鎖を押さえていてください」なんて言うんですよぉ。
この小熊を飼っているのが温泉旅館の社長さんだったんですけど、話を聞いてみると、別に飼い慣らしているわけではなくて、ただ餌付けしてるだけなんですって。で、その社長さんが、羊羹を私に投げてきて「稲川さん、この羊羹を熊にあげてください!」って。羊羹をに喰わしている間は小熊もおとなしくしているんですよ。でも、羊羹がなくなると、すぐに「グワッ」って向かってくるんですよぉ。
もうね、恐いなんてもんじゃないの。
でも、露天風呂の向こうに川の流れがあってね、山に夕日がかかっているんですよ。キレイなんだなぁ〜これが。で、私と小熊は背中に夕日を浴びながらの背中越しの撮影だったんですけど、これが不思議なことに小熊が羊羹を喰ってモグモグしてるもんだから、ちょうど私と話をしているように見えるんですよ! これが大変評判になってね、我ながら「うまくいったもんだなぁ〜」と喜んだものです。 vol17_illust.gif ところが、それから2年ほど経ったある日───。
旅モノ企画の話をいただいたんですが、ディレクターが「稲川さん、今回は群馬の温泉なんですけど、以前群馬に行かれた時に熊と温泉に入ったらしいですねえ。どーですか、思い出の熊さんとまた一緒に温泉に入りましょうか?」って言うんですよ。私は一度経験ずみだから「ああ、い〜んじゃない?」ってOKしちゃったんです・・・・・。これが誤算だったんですよね。私、熊が成長していることをすっかり忘れていたんですよ。
で、のこのこ行ったんだなぁ〜、群馬の温泉に(笑)。そこの露天風呂は片側がずーっと渓流になっていて、緑が覆い被さるような渓谷なんですよ。木漏れ日が降りそそぐ中を、自然の風が川からすーっと流れてきてね、この風の気持ちのいいこと! 「いやぁ〜最高だなぁ、こりゃいいや」と思っていた矢先、向こうから黒いでかい塊が、ものすごい勢いで走ってくるんですよ。重たそうな鎖をひきずったまま、ガシャン、ガシャン、ガシャンって。
そう、2年前のあの小熊です。太郎くんに違いありません。でも、ムチャクチャでかくなってるの!驚いちゃったなぁ〜もう。
すると旅館の番頭のじいさんが「すみませ〜ん、捕まえてくださ〜い」って遠くから叫んでて。
その日は、たまたま社長さんが外出してしまったため、番頭さんが熊担当になったらしいんだけど、慣れていないから、恐くてつい鎖を離してしまったらしいのね。でも温泉に入っている人たちは、みなすっぽんぽんで無防備なわけでしょ? 捕まえられるはずもなく「助けて〜!」「ギャ〜ッ!」って、まさに修羅場ですよ。川に飛び込む人もいれば、顔にシャボンをつけたまま、すっぽんぽんで土手を駆け上がるオッサンもいて、もうおかしいやら、こわいやら(笑)。
で、その番頭のじいさんがようやく鎖を持ち直し、「稲川さん、この鎖お願いしますね」って・・・。
考えてもみてください。山ん中で熊と一対一になって、生きた心地しますか? しかも私、腰にタオル1枚巻いただけの裸なんですよ。
でもね、人間ってのは不思議なもんで、やらなきゃいけないって思うと、できちゃうものですね。
毅然として悠々と熊の鎖を持って温泉に入ったわけです。すると、私の気合いが太郎にも伝わったのか、おとなしく一緒に温泉に入るんですよ、これが。それで前回と同じように、番頭のじいさんが餌となる茶まんじゅうを投げてくれたんですが、じいさんのヤツ、茶まんじゅうのビニールをむかずに投げてくるんですよ。こっちは熊の目の前でビニールをむかなきゃいけないし、熊は待っていられないから、「グワッ、グワッ」ってキバをむいて脅してくるし、ディレクターやスタッフは熊の様子にビビっちゃって動けないし。しかも番頭のじいさん、コントロールが悪くて、茶まんじゅうがどんどんお湯の中に落ちていくんですよ。すると、熊はもったいないと思うのか「ウーッ」って唸り声をあげて怒るしね。私がさっとすくうと、熊は手から直にガブリと食べるんですよ。もう、恐いのなんのって。
「うわ〜っ!」って発狂しそうでしたよ。
とにかく、じいさんの投げる茶まんじゅうを、熊が怒らないうちに湯の中からすくっては与えるという、必死の茶まんじゅう餌付けを行っているうちに、ようやく絵がとれましてね。見てみると、渓谷の木々の間から夕日がすーっと差し込んで、お湯がオレンジ色に染まる中、木漏れ日に照らされた私と太郎の後ろ姿が映っていました。ちょうど大きな息子と痩せたオヤジの親子連れが、温泉でしみじみと語らっているように見えるんですよ!
実際は、熊がグワッグワッと唸りながら、茶まんじゅうを喰ってるだけなんですけどね。
ディレクターとスタッフは「いい絵がとれた! 感動的だ!!」と大喜びでした。
・・・・冗談じゃないですよぉ。こっちは死ぬかと思うほど、恐かったんだからぁ〜。

話し/稲川淳二(いながわじゅんじ)
イラスト/花岡道子

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