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湯煙コラム

Vol. 117 ヤマザキマリ

お風呂、それはリスペクトするもの

ヤマザキマリ(やまざきまり)

1984年イタリア・フィレンツェの国立アカデミア美術学院入学。1997年漫画家としてデビュー。イタリア人研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、アメリカを経て現在はイタリア在住。2010年古代ローマを舞台にした漫画『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で第3回漫画大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞、世界8か国語に翻訳される。
現在は、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(新潮45、とり・みきと共著)を連載中。平成27年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。


ヤマザキマリ公式サイト http://yamazakimari.com/
 
お風呂には1日3回ほど入ります。温度は43℃で、5分くらい浸かれば十分。私がお風呂好きを公言しているわりにサッと出てしまうので、「ヤマザキさんはカラスの行水ですね」とよく驚かれます。湯船に入っている間はもう、お湯が身体に浸透していくのをただ感じているだけ。フォース(映画『スター・ウォーズ』に出てくるエネルギー)を養っているようなものです(笑。私にとってお湯に入ることはエネルギーチャージなので、ほかのことを考えたり、したいとは思わない。できるだけお湯を身体で感じることに集中したいのです。

イタリアと日本を行き来しながら仕事をしていますが、日本に帰ってくると、やはり最初にお風呂に入ります。今はイタリアの自宅にも浴槽を設置したので、好きなときに入れるようになりましたが、17歳で海外に渡って、お湯に浸かりたくても浸かれない期間が長かったので、ついお風呂に執着してしまうんです。
『テルマエ・ロマエ』に登場するルシウスたちのように、古代ローマ人はお風呂が大好きだったのに、現代のイタリアでは浴槽のある賃貸の家はあまり借りてもらえないほど人気がないんです。転売するときも高く売れるように、浴槽をシャワーブースにつくり変えてしまうくらい。「あなたの浴槽を素敵なシャワーブースに変えましょう」とうたう広告を見かけるほど、みんなお湯には浸かりません。そういう状態なので、イタリアでは素敵な入浴剤もほとんどお店で売っておらず、通販で海外から取り寄せています。
本来であれば、お湯に入る前にきちんと身体をきれいにして、「お湯よ、ありがとう」という気持ちで入らないといけないと思っているのに、私から見れば現代のイタリア人は、まったくもってお風呂をリスペクトしてないんですよ。うちは私の部屋の隣に設置した浴室付きのお風呂と、シャワーだけのお風呂の2つがあるのですが、夫は最近お湯に浸かる良さがわかってきたようで、わざわざこちらの浴室に入るようになりました。お風呂あがりに「今日も良かったわ〜、生き返った」と感想を言って戻っていきます(笑。

以前こんなことがありました。イタリア人のおばちゃんたち11人と来日し、金沢の温泉旅館に連れていったんです。最初は「温泉に入ったことがないから怖い」なんて言っていたのですが、いざ入ってみると「意外にいいものね〜」と大はしゃぎで写真まで撮っていました。じつは漢字が読めない彼女たちは、間違えて男湯に入っていたのですが・・・(笑。やはり、古代ローマ人としてのDNAの片隅が呼び覚まされるのかもしれませんね。
『テルマエ・ロマエ』や『スティーブ・ジョブズ』もそうですが、私はすべてを空想で描くのではなく、史実に紐づかせて描くことが多いんです。スティーブ・ジョブズは相当変わった人ですが、「自分という人間をもっと深く知ってくれ!」と託されているような気持ち。暴君といわれた皇帝ネロに関しても、「本当の自分を描いてくれ」と言われているような気がしてしまうんです。私のことを巫女体質的漫画家と呼ぶ人もいますが、そうかもなと思います。
それでも人間はあまり好きではありませんね。動物や昆虫のほうが好きですし、自分を客観的に見ても「ダメだこりゃ」と思いますよ。それでも人を描くことに惹かれてしまうのは不思議ですね。

漫画以外の仕事でもおもしろそうだと思ったら、すぐに引き請けてしまい、時間に追われてばかりです。締め切りのない仕事をしてみたいものですが、ルネサンス時代の画家だって、みんな締め切りがあったんです。1日でも遅れたら高額なペナルティを支払わされたので、みんな必死で厳守していたそうです。あの時代は、画家というよりは受注請負の職人さん。自由気ままな芸術家なんてずっと後にしか出てきません。でも締め切りに追われて苦戦しているからこそ素晴らしい作品が誕生したりもする。おおらかに描けば名作ができると一概には言えません。とくにエンターテイメントに関してはそうだと思います。だから私もルネサンス期の職人と同じだなと思いながら日々漫画を描いています。

話/ヤマザキマリ

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