煮えちゃう、煮えちゃう、煮えちゃうよぉと、ハルナが変なメロディで歌い出した。歌いながら、バスタブに腰掛けて、足だけを湯舟につけてバシャバシャする。ハルナの煮物、ハルナの煮物、煮えちゃうよぉ……。
「ちょっと待ってよ、トリートメントしたら代わるから」
ったく、だから、ひとりでゆっくり入りたいって言ってるのに。
「フヤケて、煮え、煮え、煮えちゃった……勉強とか、できるの?」
「アイザワ?」
「うん、レイカちゃんに報告しないといけないから」
「一応、私立も受けるみたいだけど」
「ふうん」
「でも、この前の算数のテスト、私の方がよかった」
コイツの目、全然信じてない。少しは自分の姉を信頼しろ。ま、いいけどね。もうちょっと情報流してやるか。
「アイザワはどっちかっていうと、人柄で生きてるタイプ」
「ふうん」
「あと、顔ね」
「おねえちゃんもかっこいいと思ってるんだ」
「そうじゃないけど、うちのクラスの中じゃジャニーズ系だから、一応。参観日、アイザワ母、超話題だったよ、ノリカにそっくりって」
実際、すごかったのだ。なんでも、結婚する前にモデルやってたとかで、黒い皮のミニスカートなんかはいて、うちのママとは大違い。いや、居並ぶお母さんたちの中で、ダントツ目立ってた。でもなぁ、ノリカがお姑さんなんて、ちょっとヤかも。家で何着たらいいのか、全然わかんないよね。
「ふうん……つきあってる人とか、いる?」
「あんた、まだ3年生でしょ」
「おねえちゃんだって6年生じゃない」
ぴゃーっ。ハルナが、いきなりシャワーを出して、私の背中にかけた。なに、すんのよぉ?
「ねえ、まだぁ? ハルナも髪洗う」
ったく、わがままハルナ。はいはい、わかりましたよ。トリートメント流して、ついでに体にもかけ、選手交代。湯舟につかる。お湯がちょっとあふれる。
「ふぁあ−−−−−、極楽極楽」
「年寄りくさ」
「おばあちゃんの口ぐせじゃん」
「ハルナ、おばあちゃんと一緒にお風呂入ったことないもん」
「覚えてないだけでしょ? 」
「ハルナとお風呂入る前に死んじゃったもん」
「そうだっけ?」
「田舎に遊びに行く前に、死んじゃったもん」
そっか。3才違うって、こんな風に人生に影響するんだ。ふっと、おばあちゃんのしわしわの手を思い出した。私の手と重ねて、柔らかい手だねぇ、つるつるの手だねぇ、しわなんか全然ないねぇ、おばあちゃんの手もこんなときがあったんだよ、でも、ほんとにあったのかねぇって、顔までくしゃくしゃにしてたっけ。おばあちゃん、そう言うけど、ほら、さっきからずっと熱いお湯に入ってるから、私の手もこんなにシワシワだよ。