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湯煙コラム

Vol. 04 泉麻人

小さな城下町の銭湯

泉麻人(いずみあさと)

コラムニスト。
1956年東京都新宿区生まれ。慶応大学商学部卒。79年に東京ニュース通信社に入社、雑誌の編集に携わった後、フリーのコラムニストとなる。「東京」の街をテーマにしたものから、言葉、地図、バス、サッカー、懐古モノにいたるまで、趣味の分野を活かした幅広いエッセイ・コラムを執筆している。著書に「気になる物件」「ナウのしくみ」「東京23区物語」など多数。
 
泊まりがけの旅でゆっくりと浸る、宿の温泉というのもいいけれど、通りすがりの町で見つけた銭湯、というのもなかなかいい。
僕は“全国各地の銭湯を行脚している”ほどのマニアではないが、旅先などでちょっと時間が空いたとき、喫茶店なんかで暇を潰すよりも、まず「どこかに良さそうな風呂屋はないか……」と探してみる。
函館の町で入った「稲穂湯」という所は、古びたアールデコ建築の、とても雰囲気のいい銭湯だった。浴室の壁の窓がステンドグラスで、教会のなかで湯に浸っているような気分を味わった。大阪の十三(じゅうそう)を歩いていたときに見つけた銭湯は、煙突に記された「浪花浴場」という名に魅かれた。その名のとおり、往年の藤山寛美の喜劇に出てくるような、浪花の気さくなオッチャンたちが、小さな浴槽で肩を寄せ合いながら、タイガースの悪口などを愉しそうにダベっていた。 vol04_illust.jpg 去年の秋、飛騨白川の方の祭りを取材しにいった帰りがけに、富山県の城端という町に寄り道した。城端と書いて、ジョウハナと読むのだが、文字どおり、昔“荒木氏”という土豪の城があった小じんまりとした城下町である。
街路は所々拡幅工事が進んでいたものの、時代劇に出てくるような趣きのある町並が、まだ残っている。そんな一画に、「桂湯」と昔の右読みの看板を出した銭湯を見つけた。建物は函館の「稲穂湯」のような、洋風のつくりである。ちょうど開店時間の二時の少し前だったので、界隈をぐるりと歩き廻ってから、まだ他に客が誰もいない、一番湯に一人で浸った。
番台には、四、五十代くらいのおかみさんがいた。その町にも「曵山祭」という有名な秋祭りがあるのだが、ちょっと時期がズレていたので、東京からの訪問客にびっくりしている。
立派な建物を誉めると、大正の初め頃の建築だという。
「この辺の大工さんが建てた、って話です」
ま、銭湯を近所の大工が建てるのは、別に珍しくない話だが、銭湯のある町の名は「大工町」という。おそらく、大昔から大工さんたちが集まっていた町なのだろうから、そんじょそこらの大工とは違う。
そんな素敵な銭湯の一番湯に浸り、近くに見つけた自販機で缶ビールを買った。陽はおちていないが、こういう風呂上がりの昼下がり、クイッとやるビールの味はこたえられない。フワッとした気分で、もう一度、富山の古びた城下町を歩き直した。

文/泉麻人(いずみあさと)
イラスト/花岡道子

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